嫁姑漫画

わたしが生まれたとき家には大姑・姑・嫁がおり、嫁姑問題は幼い頃からそれはそれは切実な問題であったのであるが、それは我が家のことだけではなく、二世代三世代同居の多いわが地域では、どの家でもそれはそれはホットな問題で、今でも近所では姑さんらが道端に集まっては嫁disり大会を繰り広げる光景が見られる。
だが嫁姑問題は、一方でなんか下世話な興味をかきたてられるトピックでもあって、それを認識したのんは、昔『2時のワイドショー』(おそらく関西ローカル)で延々と続いてた1コーナー「嫁姑110番」を観ていたときだった。「嫁姑110番」は、番組内の20分くらいのコーナーで、嫁姑に関するミニドラマが二本立てで流されるのだが、陰惨な嫁いじめ姑いじめのオンパレード。(今でも覚えてるのは、意地悪な嫁が姑の杖を折って外出できないようにする話。泣き叫ぶ姑の顔が忘れられない。) みる度にイヤーな気分になるのだが、なぜかこのコーナーが好きで毎回みていた。だがそれはわたしだけでない筈で、このコーナーはけっこうな人気コーナーだったと思われる。いまでも、一冊まるまる嫁姑をテーマにしたレディースコミックが出ていたりする。男が女の喧嘩をやたら喜ぶというのはよくあるけれども(週刊文春の「女の嫌いな女」特集とか)、ワイドショーもレディコミも女性対象であり、嫁姑関係に悩む当事者でありながら嫁姑バトルをエンターテイメントとして受容する女性の心理とはいかに。
というようなことが前から気になっている。

 

先日いもうとがなぜかその、嫁姑レディースコミックを買ってきたので、読んでみた。


ほんとうにこわい嫁・姑 2011年 03月号 [雑誌]

ほんとうにこわい嫁・姑 2011年 03月号 [雑誌]


『ほんとうにこわい嫁姑』2011年3月号(宙出版)。15本ほど収録されている漫画のうち、2.3本を除いてすべて嫁姑モノという雑誌。「嫁姑110番」と違って、いずれも嫁が主人公(今月号だけなのか毎回そうなのかは不明)。表紙のコピーがもうすごい。「大特集 現代モンスター姑 もう死んでッ」「お義母様に殺される~」。
では嫁姑漫画の世界をちょっと覗いてみましょう。
(ネタバレしているので、「この雑誌楽しみに読んでるの!」という方――もしおられたら――はご注意を。)



・阪口ナオミ 「杉子デラックスという女」(巻頭カラー)
マツコデラックスにそっくりな巨体の姑。食べることが趣味。働く女性に厳しく、嫁がパートに出ようとするのを阻止。嫁は不妊に悩み、原因が姑ストレスだと考える。夫も嫁をかばうが、姑は「あんたが妊娠できないのはあんたの根性が腐ってるから」と一喝。嫁、はっとする。姑を跳ね返さず自分の弱さと未熟さを認めればいいのだと悟る。そんなとき姑が骨折。嫁、妊娠する。生まれた子は姑似。(ハッピーエンド?)


山崎えり「元気すぎ!山ガール姑」
山歩きが趣味の元気な姑。口うるさい。あるときから人間関係のことで山歩きサークルに参加しなくなり、家にいて嫁に小言を言い続ける。嫁、腹を立てるが、娘の一言で思い直す。姑は嫁のアドバイスで山歩きを再開、丸くなったかと思いきや性格は相変わらず。(「やっぱりカワイクない!」と叫ぶ嫁のコミカルなショットでオチ)


・伊東爾子 「暴走!モンスター姑」(注:「姑」に「ババァ」とルビ。)
非常識な迷惑行動で近所でも有名な姑のおかげで謝りどおしの嫁。(姑は鬼のような形相に描かれている。)嫁の妊娠した子がまたも女の子らしいと分かると、姑は堕ろせと命じ、医者に苦情を言おうとする。止めようとしたところを突き飛ばされ、嫁は出血するが腹の子は無事だった。「今までごめんな」と夫。家を出ることになるが、そんなとき姑が事故で入院、身重の身で介護の日々。姑の声の幻聴が聞こえ始め、ついには姑の尿をかけられるなどのいびり。「神様これは何の罰ですか、私が悪いんですか」。夫は介護を手伝わない。スイカ事件で嫁キレる。「とっとと死んでしまえ!」。姑はその後肺炎で死ぬ。生まれた子は男の子だった。男の子と知ったらあんな姑でも喜んだだろうか。女の子だったら姑の生まれ変わりみたいだから、女の子じゃなくてよかった。姑が死んで喜びの涙を流す嫁。


・池田可嵐「クソババア日記」
読者投稿をもとにしたダメな姑のショートストーリー。最後は作者の母のオマヌケ話でなごませる。


川中島みゆき「この笑顔のために…」
息子がADHDだった、という話。姑はあんまり登場しないが、息子の落ち着かなさに、躾が出来ていないと嫁を責める役。


・井出智香恵「ひとりぼっち」
出張の多い夫。早く孫がほしい姑(口うるさい。仕事をしていて華やか)。幸せだった嫁、子宮頸がんの告知を受ける。当初は姑も気を遣っていたが、次第に苛々し始める。「あんたもとんだ女にひっかかったもんだ」。子宮全摘後、さらに手術費用が要ると聞いて、「どうせすぐ死ぬ嫁じゃない」と怒る。それを聞いて自殺をはかる嫁、止める夫。だが、その様子を眺める姑の目は嫁の死を望んでいた。嫁は夫を巻き添えにして無理心中。姑、嫁の日記を発見して後悔。


・かわばたまき「マタニティピッグ」
あんま姑関係ない。赤ちゃんの面倒を見てくれるいい姑として登場。全体としては、産後の家事労働はダイエットになるからいいという話。粉ミルク<母乳、紙おむつ<布おむつ


・赤木梨宇「わたしはお手伝いさん? 嫁姑帰省バトル」
娘を連れて夫の田舎に帰省。内情は火の車のくせに姑は名家気取りで嫁いびり。奴隷のような扱いを受ける嫁。娘に対しても「女の子ひとりだなんてご先祖様に何て言ったらいいか」「産まないほうがマシ」の暴言。夫も気にかけてくれない。さらに娘までひどい目に遭い、「無給のお手伝い」呼ばわりを受けた嫁「許さないッ」。寿司を大量に注文、義兄にいたずらメール、などの復讐。もう二度と帰省はしません。


川崎三枝子「夜叉になった小姑 やめてっ!殴らないで!!」
変則的に小姑モノ。
子宮頸がんを告知された嫁。娘のため精一杯生きると誓う。そんな家へ、離婚した小姑が帰ってくる。(嫁が女性らしい美貌に描かれるのに対し、小姑は頬骨が出て三白眼というぎすぎすした風貌に描かれる。小姑は家事もせずパチンコ浸りの怠け主婦であると語られる) 体力の衰えた嫁に、わがままを言う小姑とその味方をする姑。小姑の嫁いじめはエスカレート。娘までいじめ始め、夫との時間を邪魔する。「大事な時間を邪魔されたくない」と訴えるが、夫は寝たふり。実は小姑も子宮体がんを患っていたことが明らかになる。そのせいで離婚されたのだった。それでも、自分と違い、何かを遺そうともせず夜叉になった小姑を同情する気にはなれない。嫁は娘と家を出る。ちょっと改心する夫。


・青木泉「見くびらないでよっ」
高卒で出来婚だということで、嫁をいびる姑。「みっともない恥ずかしい」「みっともなくて恥ずかしい嫁を選んだのはあなたの息子でしょ!」。生まれた息子にも「お母さんはバカだから」と吹き込む姑。だが学校でネットを教えるようになると、現代っこの嫁が姑より優位に。息子、「お母さんをバカっていっちゃだめ」と嫁をかばう。赤面する姑に、嫁「くすっ」。


・椎名あや「私は"ぶりっこ"嫁」
嫁は元ヤンだが姑には秘密。口うるさい自分勝手な姑にも服従。「今度こそ真面目になると決めて結婚したんだもん」。だが、姑が娘を「こんな子生まれてこなければよかった」と言ったことからガチ喧嘩。実は元ヤンであることはバレており、姑は、嫁が水臭いことが寂しかったのだた。姑も実は元ヤン。


・川島れいこ「老いらくの恋」
若い男に恋する大姑。嫉妬しない大舅。眉をひそめる姑。大姑に協力的な嫁。


・丹羽珠央「天誅が下る瞬間」
再婚の嫁をいびる姑。「薄汚れた中古女」「生娘に生まれ直せ」「息子は騙されてる」。夫はかばってくれるが、姑に踏まれたことや味噌汁をかけられたことは夫にも言えない。いつか姑の上に立ってやると誓い、痣だらけの顔で夜まで拭き掃除をする嫁。夫、怒る。姑は、嫁がかつて前夫の暴力で流産していたことをばらすが、夫は動じない。「母さんよりそっちを選ぶなんて…」ショックを受ける姑。夫の出張中、嫁と腹の中の子を殺そうとする姑。姑は転んで寝たきりになる。嫁幸せそう。


・読者投稿コーナー
嫁姑川柳など。

 

 


全体として気づいたこと
・息子率より娘率が高い(そして娘は、女の子であることを非難される)
・子供に被害が及ぶことによって嫁がキレるパタン
・子供を堕ろさせようとする・流産させようとする事件によってキレるパタンも
・子宮頸がんが二作品でテーマになっているのが気になる。(実際若い女性に増えている病であることもあるが、「子宮」という女性特有の器官の病であるということになんかありそう)
・殺される寸前の仕打ちを受けていながらなぜか別居しない
・夫は概して存在感なし