センター試験の思い出

私は浪人したのでセンター試験を2回受けている。いずれも、京大のD、E号館で受けた。センター試験には色々な思い出がある(同室の人が窓の開閉をめぐって試験中に喧嘩を繰り広げるなど)が、とりわけ覚えているのは、二年目の数学IIの思い出である。


私は、浪人するのは一年だけということになっていたので、この年は後がない状態で挑んだセンター試験であった。
悲劇は数学IIの時間に起こった。
いや、べつに悲劇でなくて、単に、問題がぜんぜん解けなかったというだけのことのやった。つまり単に、難しかったのである。
それぞれの大問の最初のほうを1、2個ほど解いたところで、さっぱり解けなくなり、途方にくれてしまった。(できない……一年間勉強してきたのに全然できない……いままでの勉強はなんやったんや……これがたった一度のチャンスやのに何もできない………) 
60分が過ぎるあたりで、わたしは本格的に絶望し始めた。そして、考えた。

(一問も解けず、何もできないまま、時間だけが過ぎてゆく… ああ、人生って、こうなんかな…… )


ぜんぜん入学試験中に考える必要のあることでは無い!!
実際、そんなことを考えている間に必死で問題を考えれば、一問や二問、解ける問題もあったであろう。だが、

 

(ああ、解かなきゃ、と思いながらも、何もできないまま時間が過ぎてゆく。死ぬ前もこうなんかな? 人間は死ぬ前も、何かやらなきゃ、でも何もできないな、何もできないまま死ぬんやな、って思いながら死んでいくんやろうな… ああ~)


とか考え始めたら止まらなくなり、まったくそんなことを考えている間に一問でも解けばよいのだが、90分のうち実に30分を人間の生死についての絶望的な思索に費やし、まさに何もしないまま試験時間を終えたのであった。その日は、いつか来る死のことを考えながら、暗い気分で帰った。